ホリーたたみのレースリポート

99 Q!MARU 8時間耐久レース  1999年10月3日


こんな大変なレースは、過去にあったのだろうか?

今回の8耐は企画段階からいろいろと大変だった。実際のところ、静岡の谷内夫妻が到着して けんさわ氏が到着しても、まだ半信半疑だったのである。そして、前日マシンの整備に取りかかって 初めて「ああ、ついに開催されるんだな」という気持ちになってきたのである。

8時間の長丁場は、私自身も未経験である。今年のこれまでの2レースでは、マシンに微振動が 出ていたにもかかわらず予選ではなかなかのスピードを見せていた。これは、スプリントだったら 何とかなる、という気持ちからであったが、8時間ではそうはいかない。特に、けんさわ氏の リベンジもかかっている。谷内氏のサポートは心強かった。エンジン、ギア、駆動系など 気になるところは全てチェックするつもりで土曜日を迎えた。

振動の一番の可能性は、ギア部分である。以前、このベアリングにガタが出たことがあったのだ。 久しぶりにオイルを抜き、慎重にケースを開ける。しかし、意外にもどこにも問題は発見されなかった。 そして、「一応」と思い開けたシリンダー、ピストンを一目見て驚いた。ピストンクラウン中心に 融解があり、リングも固着していたのである。確かに、前2戦で薄すぎてエンジンストップもあったのだが 最後まで回っていたエンジンである。カーボンの量も多く、これは磨いてどうこうできるものではない。 しかし、ここで問題があった。私のシリンダーは0.5オーバーサイズの物なのである。つまり、 もしSUGOの予備部品にピストンがあったとしても、それはSTDである。0.5mm小さいのだ。鈴木氏 に聞いてみるが、ピストン自身は家にあると「思う」であった。これをあてに当日を迎えることは出来ない。
が、幸運にもSUGOにSTDのピストン、シリンダーと一式あったのである。これは、SUGOの我妻さん自身が 驚いていた。出費は大きくなるが、ここでそんなことを言ってはいられない。そそくさと、箱を開けてみる。 この、シリンダーはどうも新しい処理がしてあるらしく、なんとなく嫌な感じを覚えた。しかし、そんなことを 言っている場合ではない。早速、組み上げて慣らしをしなければいけないのだ。

SUGOも10月になると、5時過ぎには既に暗くなっている。ライトのついたコースにマシンを進める。 慣らしを行いながらの走行であるが、どうやらパワーがないようだ。3秒台のタイムに不満である。 この状態は、アタリが出ていないエンジンのせいなのか、それともウェイトローラーが重いのか。。。 とにかく、明日の状態を見てみないと判らない。 私の頭の中は、当日の作戦のことよりも、このエンジンのことだけでいっぱいだった。

メンバーは、精鋭。シューミに3度勝った男けんさわ、フォーミュランドの師匠谷内夫妻、FK-9の尊師杉山、 そして帝王Tackmix である。マシンさえよければ、絶対に勝てる布陣である。私とけんさわ氏は「3秒台で 大丈夫だろう」と考えていた。

決勝日

私は、マシンが遅くてもトラブルは未然に防いだ、と考えを切り替えることにした。
そうだ。あんなに、すごい状態のピストンで走りきったマシンなのだから、と。
タイムアタックは、2度行われる。とりあえず、昨日のままのセッティングでマシンに乗ってもらう。 しかし、なかなかタイムが上がらず回転数も低いらしい。これは、アタリが出るとかいう問題ではない。 次のアタックに備えてウェイトローラーの計算を始める。今まで、これほど軽くしたことはなかったのだが 6gX6のウェイトで2度目のアタックにはいる。しかし、3秒台のまま5番手あたりである。これはまずい。 今まで、全くステアリングを握っていなかったTackmixが、マシンの調子も確認するべくアタックに入った。 ここで、2秒台を叩き出し、どうにか3番手のグリッドをもぎ取った。しかし、前のささき号と大坂号は あまりにも速すぎる。

決勝に向けて、作戦会議が始まる。まずは、マシンセッティング。ウェイトローラーの軽量化で回転数を 上げることには成功したが、これはエンジンのライフを考えると危険である。いままで6.25gにはしたことが あっても、6gは軽すぎるのだ。ここで、中間の6.25gに変更することに決定。スタートドライバーは尊師杉山。
非常に良いスタートで2位に上がる。私も、スタート実況をしながらゼッケン93のタイムを確認する。しかし 遅い。5秒台までタイムが落ちてきているのである。順位も徐々に落ちてきている。 これは、ウェイトローラーのセッティングが裏目に出たのであろうか?早いうちに決断することにした。 450周ほどの周回予定で、10分ほどの遅れは取り戻せると考えたからである。ドライバーをチェンジした 谷内が「7」「1」というサインを送ってくる。最初は判らなかったが、どうやらコントロールライン上での回転数 のようだ。すぐにサインボードで「7100」という文字を返し確認を取る。 これで、いつもの回転数にはなったようだ。

しかし、タイムが一向にあがらない。3秒中盤と言ったところだ。昨日の作戦では、このタイムで充分なはずな のにトップのタイムが1秒台に入る。これに騙されて焦ってしまっているのだ。そのうちに、谷内は2秒台のタ イムを出し始める。

この時点で、他のチームの状況は、トップの大坂号は相変わらずハイペースで走っている。ピットスタートとなった 鈴木号も調子は良さそうだったが、なんとブレーキのシリンダー部分が折れて緊急ピットイン。また追い上げを しなければならなくなった。相沢は、エンジントラブルでマシンの横で頭を抱えている。各チームとも、何かしらの トラブルを抱えているようだ。マイペースの佐藤号がここで順位を上げてくる。ささき号はタイムにばらつきがあり 作戦が読めない。RA飯能からはるばる参戦しているTeam SEXY-Japanは、一度ピットインしてセッティングを変更したようだ。初めてのコースなのになかなかのペースで走行している。現在の2位は千葉号。

ここで、我がチームはルーティーンのドライバーチェンジを行う。F1フォトグラファーのけんさわがマシンに乗り込み エンジンをスタートさせようとするがなかなか火が入らない。キャブを弄ってみたり、プラグを確認してみたりするのだがいっこうに直る気配がない。後に、シリンダーを開けることになるのだが、既にこの時点でピストンリングの固着が 起きていたようなのである。パワーダウンの原因が分からないままに走行を続けるけんさわ。しかし、次のピットインで エンジンの修理にはいる。STDに戻したエンジンなのでSTDのピストンを探すが、既にどこにもない。幸運にも、 昨日の出来事を覚えていてくれた鈴木氏が0.5オーバーのピストンを持っていたため、それを譲り受け、昨日交換した シリンダーを再度組み込むことになる。これで、ペースが戻ると良いのだが。。。この作業で、また大きく後退してしまう。自力の上位入賞は難しくなってきた。

これほどのトラブルに遭遇しながら、根本の解決策を見いだせていない。しかも、マシンのスピードは相変わらず3秒台。これでは、レースどころではない。対策を考えているその時、修復したエンジンでレースに復帰していた相沢号が またピストントラブルでマシンを止めてしまった。今度こそ、予備パーツはない。しかし、レース用に予備として残し ていた1台のマシンからエンジン換装を決行することにする。どのチームもトラブルを克服するのに精一杯の動きをし ているのだ。

トップの大坂号はついにコースレコードとなる0秒台をマークした。このハイペースでマシンが持つのかどうか、我々も半信半疑であったが、ここまで見せつけられると、その予想すら自信が無くなってくる。しかし、このマシンもついに異常を訴え始めた。1コーナーで、後方から異音を発するようになりタイムも大きく上下しはじめた。明らかに駆動系の トラブルである。現在、2位との差は5周以上。このトップをあと4時間も守りきらないといけないのである。大坂の 監督業に感心したのはこの時だった。冷静に、タイムの指示を出す。それに、星、矢竹が応えるべく、ドライビングテクニックで凌ごうとする。
3時間を過ぎようとするあたりで、なんと3度目のエンジントラブルが相沢号を襲う。もう対策のしようがない。 しかし、相沢は私に「最後に押してでもチェッカーを受けますから、リタイアしません」と言ってくれる。なんたることだ。たかが、FK−9のレースじゃないか、という思いを私自身、払いのけながら参加・運営してきたはずである。 しかし、実際にこの言葉を聞くまで、それは私の独りよがりだとすら思っていた。感謝する。

この時、千葉号が緊急ピットイン。どうやらプーリーが変速しなくなったようで、大きくタイムを落としている。 すぐさま駆動系の点検に入るが順位もどんどん落ちていく。大坂号のタイムの変化は時間を増すごとに大きくなり、8秒台に入ったり、3秒台に戻ったりでトラブルが深刻な物であることを物語っている。

レースは5時間目に突入し、ライトが照らされる。ナイトセッションの始まりである。
そして、星のドライビングする大坂号が、ついに1コーナーでスローダウンする。ピットでは、悲鳴、歓声の入り交じった何とも言えない声が上がった。星は、エンジンの再スタートに成功するが、たぶん我々と同じトラブルがピストンにあるだろう。ドライバーチェンジの時にエンジンがかかるかどうか。。。ついに、そのエンジンは息を吹き返すことがなかった。

さて、堀籠号はというと、またラップタイムが落ちてきたのだ。どう考えても、ピストンのトラブルのようだ。杉山が たまりかねてピットインしてくるが現段階では対処の方法がない。とにかく、対応部品を調達するまでコース内に留まることを指示する。やっとの思いでエンジンを始動してコースインしていく杉山。しかしもう、合うパーツは無いのだ。 考える余裕もなく最終コーナー手前でストップする。急いで、マシンの回収に走るが解決策は無い。走りながら必死に考える堀籠。そして、一つの方法が閃いた。
このWEBにも書いてあったが、あの方法を使うしか無いのだ。急いでガレージに戻る堀籠。新しいピストンとリングを手にしている。しかし、これは0.25オーバーのピストンなのである。実験のために買っておいたパーツを思い出したのである。0.5オーバーのシリンダーに一回り小さなピストンを組み込む。当然の事ながら、ピストンは首振り状態になってしまう。それでもいい。エンジンが3度壊れようとも、コースに残りたかったのである。オイルを濃いめにして、エンジンを始動する。かかった!!。しかし、カラカラという音は、いつでも壊れることを意味している。この状態で杉山がコースインしていく。当然、エンジンを全開に出来ないためラップタイムは落ちる。しかし、それでも5秒台での走行をしている。既に、順位は関係なくなっているのだから、ペースをもっと落とすように指示する。

千葉号も同じようにピストンのトラブルに遭遇した。どこかでアクシデントにもあったようでマフラーが曲がっている。
残り、2時間。トップは佐藤号とささき号が争っている。

堀籠号のエンジンはまだかろうじて生きている。アクセルペダルにもトラブルを抱え、いつ止まってもおかしくない状況。杉山は谷内妻とドライバーチェンジのためにピットインしてくる。まだ、走行していないのだ。若干のキャブ調整をしてピットから送り出すが、出ていってすぐの1コーナーで急にエンジンがストップしてしまった。パッテリーを抱えてピットから走り出す。しかし、どうしてもエンジンがかからない。一度ピットにマシンを運ぶことになる。キャブをもう一度濃く調整して、エンジンを始動。とにかく、止まらないで走ってくれと頼む。谷内妻には我慢の走りをしてもらうわけだ。大変申し訳なく思いながらピットから送り出す。

最後の20分。チェッカーは私に受けさせてくれることになった。ヘルメットを被りながら、ここ2〜3ヶ月間のことが 頭の中に蘇る。実際のところ、開催することすら無謀なのかと考えたこともあった。各チームに対して、無理な出費を させてマシンを壊すことだけを強制してしまったのではないかと考えたりもした。しかし、どのチームも投げ出さずに コース内に留まろうとしている。ただ8時間後のチェッカーを受けるためだけに、順位に関係なくコースに留まるのである。私も、コースに入ってから、このドライバー達、仲間達に感謝の気持ちでいっぱいになった。そして、前方には5年目で初の優勝のチェッカーが待っているささき恵一が走っている。いろいろな思いが交錯する。今、乗っているマシンが カラカラと音を立てながらもなんとか頑張っている。今まで、ずっと一緒に戦ってきたマシンを愛おしくさえ思えた。こんな状態で、平常でいられるわけがなかった。チェッカー後、レースで初めて涙を流してしまった。


最後に・・・・
私自身、耐久レースは3時間を超えないと長いスプリントレースだ、と考えていたこともあったが、8時間という 時間はそれだけの事ではなかった。各チームでドラマがあり、誰もリタイアをしないのである。それは、スプリントでは リタイアせざるを得ないのであるが、この事態を受け入れているわけではないとつくづく感じた。
そして、みんなレースを心から愛しているのだと感じた。
このレースは、SUGOさんの協力がなければ出来なかったことは事実であるが、実際に開催するまでには様々な要因で 放り出したくなったのも事実である。しかし、このレースで私自身がレースの新しい一面を見ることが出来た。

今まで、一緒に戦ってきたドライバーのみなさん。
いろいろな形で協力してくれた ささき恵一さん。
旧フォーミュランド仙台のみなさん。
SUGOカートコースのみなさん。特に、我妻さん。目黒さん。三品さん。
F1フォトグラファーでありながらレーサーの けんさわさん。
ダンロップの木村さん。

そして、
今までこんな大人げないことに最大の理解と協力をしてくれた
チーム監督でもあるウチの奥さん。

みなさんに、心から感謝しております。どうもありがとう。

来年も、また戦い抜きましょう。


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